ヘンプがすべてを調和する
今シーズンのパタゴニアの73製品がヘンプを使用しています。ヘンプの栽培は、土壌に必要不可欠な栄養素を補給し、表土の浸食を防ぎ、合成肥料を必要としません。
人類とヘンプの歴史は新石器時代にまで遡ります。何世紀にもわたって、この繊維は生地だけでなく、世界を周航する船乗りたちに必要な索具など、じつにさまざまなものに使われてきました。長いあいだヘンプが私たちの力仕事に欠かせない存在となっていた理由は、この魔法のような植物の無数の水素結合と、シンプルな長い鎖のようにしっかりとした強度を発揮する直線形分子構造という性質にあります。生育条件がよければヘンプの茎は4メートルにもなります。つまり4メートルのセルロース繊維で丈夫な布や縄を作ることができるということです。
ヘンプの鎖状の繊維は、リグニンという天然の接着剤で結着しています。それにより繊維はびっしりと詰まった束になり、有機資源として活用されるシャイブという木質の芯のまわりに貼り付いています。繊維をシャイブからはがすため、農家は収穫したヘンプの茎を積み、微生物の働きでリグニンを分解します。レッティングというこの工程には、分解を加速させるためのさまざまな有毒化学物質が存在することは意外ではありませんが、私たちは自然の力を利用した昔ながらの方法を採用します。残ったシャイブを粉砕した「ヘンプハード」という素材はバイオプラスチック製品の原料となり、自動車の内部パネル、断熱材、床材、ヘンプクリートブロックなどに形を変えていきます。
天然繊維や合成繊維とヘンプ繊維を交織すると強度が増して洗練され、ロープやカーペットやラグビーシャツなどに使われます。パタゴニアのワークウェア製品に使用している丈夫ながらしなやかなキャンバス素材は、ヘンプとオーガニックコットンとリサイクル・ポリエステルを複合して作られています。ヘンプはまた通気性に優れた織り目の粗い組織にも使用でき、オーガニックコットンやテンセル・リヨセルなどの素材と組み合わせることができます。私たちは通気性、防臭効果、耐摩耗性、自然なドレープといったヘンプの恵みを用いて、1日中着心地のよい衣類を作っています。
そしてこの草が秘めている魔法は地面の上だけにとどまりません。作物として育てられるヘンプの長い主根は、最も固く栄養価の低い土地でも地中深くまで伸びていきます。土壌の下層から栄養分や微生物を吸い上げ、長年の工業型農業や耕起によって傷ついた表土の再生を助けます。最近の研究ではヘンプは土や空気や水に存在する汚染物質を除去または破壊し、環境を安定させるファイトレメディエーションの作用があることも示されています。
アメリカ合衆国内のほとんどの州で産業用ヘンプの栽培がふたたび合法化されたいま、私たちはその栽培と加工に関して失った知識を蘇らせることに興奮しています。そしてこの植物が私たちの行いを正す手助けをしてくれる、新たな方法の探求をつづけます。ヘンプをまた働かせるときがやって来ました。