Alex Chan |コンテンツ・ストラテジスト| 2024年8月5日
人事リーダーは最近、より適切かつ効率的に仕事を行うためのAIの活用方法という、多くのマネージャーの頭を悩ませている問題に直面しています。Society for Human Resources Management(SHRM)が2024年1月に米国の人事担当者2,366人を対象に行った調査では、AIを使用していると答えた回答者は全体の4分の1程度にとどまりました。このうち、AIを使用し始めたのはここ1年という回答がほとんどでした。
しかし生成AIは、テキストの作成や情報の要約を中心に、複数の方法で人事に役立つことがすでに証明されつつあります。生成AIのこうした活用により、人事担当者は管理業務に集中する時間を減らし、従業員の支援や採用予測、人材スキル分析などの戦略的業務に集中する機会を得ることで、人事担当者の時間短縮を支援することが可能です。効率を向上させ、コンテンツを生成し、新しいインサイトを提供する機能を備えた生成AIは、人事担当者が従業員をリードできるよう支援するために活用することができます。
ジェネレーティブAIとも呼ばれる生成AIは、新しいテキスト、画像、動画、音声コンテンツの生成に活用できる人工知能の一種です。生成AIは、人が提供するプロンプトに応じてコンテンツを作成します。データ分析に重点を置く他の形式の機械学習や人工知能とは異なり、生成AIは新しいメディアを生み出します。人事という分野では、たとえば、職務記述書の初稿を作成したり、従業員アンケートから得られたフィードバックの要約をまとめるために生成AIが使用されることがあります。
人事チームは、さまざまな形式のコンテンツを作成する機能を持つ生成AIが、部門の生産性の向上や従業員による雇用情報へのアクセス支援など、さまざまな方法で人事チームを支援できることを知りつつあります。生産性の向上により人事担当者がより定型的な従来のタスクから解放されれば、そうした担当者は人材開発や 採用プロセスの改善など、より戦略的な分野で企業を支援することができます。同様に、生成AIを実装したチャットボットが従業員からの学費の払い戻しに関する質問に迅速に答えることができれば、その従業員は本来の業務に戻ることができます。生成AIが人事に与える可能性のある影響をご紹介します。
職務記述書の下書きから従業員の業績を管理者がより的確に把握することの支援まで、生成AIを活用して人事活動を支援する方法は数多くあります。すでにこれらの機能を活用している企業では、従業員の採用、オンボーディング、人材確保において効果を上げています。
SHRMが実施した2024年の調査によると、人事プロセスにAIを使用している組織における最も一般的な使用目的は人材獲得です。この調査では、人事担当者の65%が職務記述書の作成を支援するためにAIを使用しているがことがわかりました。生成AIは、業界動向や企業が求めるスキルセットや経験を分析し、有能な求職者の目に留まる職務記述書の作成を支援できます。採用チームは、組織のミッションと価値を強調する企業のウェブページを生成AIに提示し、職務記述書に盛り込む要約を作成させることさえも可能です。職務記述書の最終版をレビューして修正する責任は採用チームに残りますが、生成AIを利用することで、最初のコンテンツを作成する時間を短縮することができます。
人事部門は人工知能を使用して、福利厚生の登録、休暇取得に関するポリシー、その他の職場の必須事項について新入社員に重要な情報を提供することで、オンボーディング・エクスペリエンスを向上させることができます。チャットボットは、新入社員が通常尋ねる種類の質問に即座に回答することができます。生成AIは個人アシスタントのような役割を果たし、新入社員が正しい情報を見つけられるように支援したり、よくある質問に回答することができます。.
LinkedInの2023 Workplace Learning Reportによると、組織の93%が従業員の定着率に懸念を抱いています。同レポートによると、この問題に対処する最も効果的な方法は、学習機会を提供することであり、従業員の94%は能力開発の機会があれば職務継続の支援になると回答しています。生成AIは、カスタマイズされた開発トラックの推奨、人事部門によるトレーニング・シミュレーションの作成支援、ひとりひとりの進捗に応じた学習パスの調整など、人事部門のトレーニングと能力開発の取り組みを支援するために活用できます。
AIは継続的に情報を収集する機能を備えているため、年間を通して従業員の業績データを収集するために使用でき、また、個人の業績評価に備えてそのような情報のまとめを支援するためにも活用することが可能です。このアプローチは、レビュー・プロセスにおける近接誤差、つまり直近の出来事の重要性を過度に重視する傾向を回避できるよう支援します。生成AIは、マネージャーのメモや箇条書きにしたリスト、従業員の年間の業績、同僚による包括的なレビューを取り込み、その情報を、マネージャーがレビューおよび修正できる、業績評価の下書きに変換できるようサポートします。これにより、マネージャーが業績評価の下書きに費やす時間を短縮し、従業員の仕事、目標、成果に関するより詳細な会話に時間と注意を集中させることができます。マネージャーと従業員は協力してパフォーマンス目標とパーソナライズされた開発計画を作成し、生成AIを使用することで、その計画の文案作成を支援することができます。
生成AIは、複数の方法で従業員エクスペリエンスのパーソナライズをサポートすることにより、従業員エンゲージメントと定着を支援するために使用できます。また、従業員の目標と企業のニーズに基づいてカスタマイズされた学習プログラムを推奨するサポートに活用できます。生成AIの自然言語処理機能は、eコマース・サイトが何千もの製品レビューをまとめて概要を提供するように、従業員のフィードバックと企業チャンネルでのコミュニケーションを分析し、職場に関する従業員の感情をまとめることを支援するために適用される場合があります。これは、リーダーシップが職場の問題を特定および対処することを支援し、最終的に従業員の満足度を向上させます。さらにAIは、パフォーマンス評価や企業活動への従業員の参加の高低など、従業員データのパターンのモニタリングを支援するためにも活用できます。これにより、人事チームが潜在的なエンゲージメント低下を予測し、従業員のエンゲージメントを高めるための先行的な戦略の導入を支援することができます。
効果的な人材計画には、業が目標を達成するために適切なスキルを持つ人材を適切な数だけ確保できるよう、人材配置や採用に関する分析、予測、予算編成を行うことが必要となります。生成AIは、履歴データと市場動向の収集と要約を支援することにより、組織が従業員ニーズに対処できるよう支援するために活用できます。たとえば、人事チームは通常、定期的にスキル監査を実施しますが、これは年に一度の大きなプロジェクトとして、あるいはそれ以下の頻度で実施されることさえあります。生成AIにより、人材管理システムを利用して、従業員のプロファイルに基づく企業の既存のスキルと、求人要項や職務記述書に基づく企業が必要とするスキルの比較を支援できます。このプロセスを通じて、潜在的なスキル・ギャップの特定を支援し、従業員の調整を推奨することができます。その後、人事チームは生成AIツールを使って、企業のビジネス目標に最適になるように最初の分析を改善および適用することができます。そのため、ある企業が特定の製品分野の成長をサポートするために営業スタッフを増やしたいと考えている場合、その製品グループのセールス・チームの人数と経験レベル、同グループの定着率と離職率の傾向、営業ノルマに対するパフォーマンスについて、概要説明を求めることができます。
ポリシー管理は、職場の安全衛生、勤怠、規制コンプライアンスに関する企業の幅広い取り組みを含みます。生成AIは、従業員関連の新しい規制をレビューし、人事チームにフラグを立てることをサポートするために活用できます。さらに、生成AIを用いることで、人事チームによるレビューと検討のために、関連するコンテンツをダイジェストおよび要約することで、ポリシー管理のサポートに役立てることができます。
生成AIは、労働力の指標を追跡し、データドリブンなインサイトとサマリーを提供し、人事チームがダイバーシティとインクルージョンに影響を与える採用戦略を調整することを支援するために活用することができます。たとえば人事が、全従業員にパーソナライズされたトレーニングプログラムを提供するために生成AIを使用している場合、学習機会への平等なアクセス促進と、教育およびトレーニングにおけるインクルージョンの向上を支援するために生成AIを利用することが可能です。企業が最も価値を置き、特定の個人を最も支援する内容に焦点を当てたトレーニングを提供することで、このアクセスはより多くの従業員に対する機会の創出を支援します。
特定の手作業による反復的なコンテンツ作成と要約作業を自動化する生成AIの機能は、組織の時間とコストの削減につながる可能性があります。生成AIを人事プロセスに組み込むことの潜在的なROIを評価するには、組織で生成AIがプロセスを改善できる特定の領域を絞り込むことが重要です。
生成AIによってどのような問題の対処を望むかを考えてみてください。人事製品のエキスパートによると、採用業務を中心とする一般的な業務をサポートする膨大な機能が備わっています。職務記述書の作成、求職者への連絡、従業員の問い合わせへの迅速な対応を支援する生成AIの機能は、人事部門の大幅な時間短縮を支援することができます。このような時間の短縮と効率化により、人事スタッフを増やすことなく従業員基盤の拡大をサポートしたり、増員することなく新しい人事施策を担うことが可能になることがあります。テクノロジーの使用により、人事の人件費を長期的に抑制することで、具体的で測定可能なメリットを得ることができます。
人事における生成AIの役割は、より多くの従業員が人事プログラムにエンゲージメントするようになるなど、直接的なROI以上の効果を組織にもたらすことを支援できます。たとえば、従業員がピアツーピア・フィードバックに参加しておらず、生成AIがピア・レビューの下書きを支援することでそのプロセスの簡素化を支援できる場合、それはパフォーマンスと定着を通じて企業に利益をもたらす従業員の成長を実現する可能性があります。
具体的に改善したいプロセスを理解すれば、組織は必要な改善に対応するために適切なテクノロジーを選択することができます。コンテンツの作成やチャットボットの使用による従業員のサポートなど、人事部門の生産性を向上させるような改善策を考え、その改善を測定する方法を考えてみましょう。
生成AIを活用することで、人事チームの業務を有意義な形でリシェーピングできるように支援することができます。採用プロセスでは、職務記述書の作成や求職者とのコミュニケーションなど、人事担当者が時間を短縮できるよう支援するために活用できます。組織が人材を獲得した後は、オンボーディングと職能的成長をサポートするツールを提供することで、生成AIは継続的な支援を行うことができます。これには、新入社員が抱く可能性のある一般的な質問への生成AIによる回答、業績評価を下書きするための情報収集、個々の従業員向けにカスタマイズされた学習計画の推奨などが含まれます。これらの機能は、従業員に有意義なエクスペリエンスを提供しながら、人事担当者の大幅な時間短縮につながる可能性があります。
生成AIの時代に適切かつ効果的であり続けたいと考える人事担当者は、テクノロジーではできない職務の遂行に時間の大半を費やすようにすることで、そうした目標に取り組むことができます。これは、従業員の間に生じうるスキル・ギャップについてビジネス・リーダーと話し合いを開始し、組織のニーズに対応するスキルアップとリスキル・プログラムを設定することを意味する場合があります。あるいは、新しい従業員候補のプールを特定し、そうした人材のためのトレーニングとプロフェッショナル開発プログラムを作成するなど、新しい人材をターゲットとし、組織に惹きつけるための創造的な戦略に注力することも考えられます。また、マネージャーに対するアドバイザリー的な役割を果たし、直属の部下とより有意義な仕事のパフォーマンスに関する会話を促進できるよう支援することも含まれる場合があります。
人事リーダーは、組織内での生成AIのガバナンスと導入に関与できる方法も検討する必要があります。人事担当者は、この新しいテクノロジーの導入と、それが従業員のスキル開発とキャリアアップを強化する方法について、有意義な意見を述べることができます。
生成AIを人事組織に導入するプロセスは、人事チームがAIによって業務が変化する方法に適応し、従業員全体がAIによって何ができるかを学ぶため、最初は困難に思われる可能性があります。しかし、既存のワークフローに適切な生成AI機能を組み込むことで、人事チームは、組織の人材獲得、職場の従業員の育成とエンゲージメント向上、従業員のニーズや質問への迅速な対応をより効率的に実現できます。
Oracle Fusion Cloud Human Capital Management (HCM)は、ジャーニーによる従業員エクスペリエンスのパーソナライズ、従業員の感情の把握、スキルおよび能力開発機会の提供、分析を活用した従業員に関する重要なインサイトの取得などを可能にするツールを用いて、従業員の効果的な管理を支援する完全なクラウド・ソリューションです。また、Oracle Fusion Cloud HCMには、人事プロセスの自動化と従業員エクスペリエンスの向上を支援する生成AI機能も備わっています。企業全体に単一のユーザ・エクスペリエンスおよびデータ・モデル、さらに組み込みのAI機能を提供することにより、Oracle Fusion Cloud HCMは、グローバルな人事プロセスの計画、管理、および最適化を支援できます。AIによるサポートのメリットには、求人情報、キャリアページ、企業概要の作成時間短縮を支援することや、自然言語による会話を通じて従業員に状況を踏まえたサポートを提供することなどがあります。
生成AIの人事における活用方法を教えてください。
生成AIは、採用のための求人票の下書き、オンボーディング期間中の質問への回答、パフォーマンス管理のためのコンテンツの集約、人員計画のためのインサイト抽出など、人事業務の自動化を支援するために活用することができます。
AIを人事に利用する方法を教えてください。
職務記述書の作成、求職者とのコミュニケーション案の作成、最適な求職者の特定を簡素化するテクノロジーの機能により、人材獲得は人事におけるAIの最も一般的な用途となっています。
生成AIの主なユースケースを教えてください。
人事における生成AIの主なユースケースとしては、採用における職務記述書および求職者とのコミュニケーションのサポート、よりパーソナライズされた従業員エクスペリエンスのためのセルフサービス・アプリケーションのサポート、パフォーマンス管理のためのコンテンツの要約などが挙げられます。
HCM向け生成AIとは
HCM向け生成AIは、人事アプリケーションにAIコンテンツ作成ツールを組み込むことで、人事担当者がより多くのタスクをより短時間で完了できるように支援します。これらのツールは、業績評価の要約作成作業の簡素化、従業員のパフォーマンス向上を支援するフィードバック・コメントの下書き、従業員のワークフローをガイドする状況に応じたコンテンツの提供などにより、人事チームをサポートすることが可能です。