既存不適格建築物とは?違法建築物との違いや売却の注意点を解説します

2024.06.20更新

この記事の監修者

木村 ゆり
木村 ゆり

不動産鑑定士/土地活用プランナー

既存不適格建築物とは?違法建築物との違いや売却の注意点を解説します

売却が難しいといわれる既存不適格住宅の売却を検討中の方に、通常の売却とは異なる売却の考え方や留意点についてご紹介します。

この記事のポイント
  • 「既存不適格」とは建築当時は合法であったが、法令改正などで現在の法律に違反となってしまった状態のこと。
  • 保安上危険な場合を除き居住や所有に制限はないが、建て替えや増改築の際は現行の法律に合わせなければなりません。
  • 売却の際はデメリットをふまえて、対策を取っていく必要があります。

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目次

「既存不適格」とは?違法建築物との違い

既存不適格建築物は、わかりやすく言うと、「建築した当時は合法的だったけれど、法律が変わって、現在の法律に合わなくなってしまった」という状態です。

「建物を建てた後に法律が改正された」というのがポイントです。
それでは、「既存不適格」の正確な定義についてご説明いたします。建築基準法3条2項に、下記のように定められています。
この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物若しくはその敷地又は現に建築、修繕若しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地がこれらの規定に適合せず、又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては、当該建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、当該規定は、適用しない。

この条文は、建築当時は適法だったものの、後の法改正により、基準に合わなくなってしまった建築物は、現行の法律の規定適用は除外しますという旨を示しています。

建築基準法の法令改正により発生

建築基準法が施行された昭和25年以降、現在に至るまで、時代の変化に応じて、さまざまな改正が行われてきました。その改正によって、用途地域や高さ制限、建ぺい率制限、容積率制限、隣地間距離制限、接道距離制限、日影規制の適用の制限などが変更されることがあり、その場合新しい建築基準を満たさない建築物は、既存不適格となってしまいます。

既存不適格建築物は、そのまま住み続けることは可能です。また所有していることに対して罰則の対象にもなりません。ただし、建て替えや建築確認が必要な規模の増改築を行う場合には、現行の法律に従う必要があります。

また、既存不適格建築物が「著しく保安上危険であるかまたは著しく衛生上有害と認める場合」には、特定行政庁が所有者等に建築物の除却を命令する権限があります。つまり、著しく老朽化して倒壊の危険がある既存不適格建築物などは、自治体の判断で撤去される可能性があるので注意が必要です。

それでは、既存不適格建築物の具体的な例を見ていきましょう。

ケース1:用途地域に適合していない

例:「用途地域」の新たな指定や変更がされた場合
「用途地域」は、そのエリアに建てられる建築物の用途や大きさを規制するものです。例えば、「工業専用地域」に住宅を建築することはできません。合法的に住宅を建てたあとに、そのエリアが「工業専用地域」に変更された場合には、現在の法律に適合しない既存不適格建築物になります。

ケース2:建ぺい率をオーバーしている

例:所有地(200㎡)の建ぺい率が60%から50%になった場合
建ぺい率(敷地に対する建築面積の割合)60%の場合、建築面積を120㎡とすることができます。その後の改正により、建ぺい率が50%に変更されてしまった場合、建築面積は100㎡までとなるため、図の赤い部分が改正後の建築基準法上では、面積オーバーとなっているため、既存不適格の建築物として扱われることになります。

ケース3:接道義務を満たしていない

例:建物を建てた後に、接道義務が厳しくなった場合
建築基準法では、原則として幅員4m以上の道路に敷地が2m以上接していなければなりません。これを接道義務と呼びます。

建築基準法はこれまで幾度も改正されているため、建築当時には、「道路」に面していると認められて建築可能だった土地が、現在は接道義務を満たさなくなっていることがあります。このような接道義務を満たさない建物は、再建築不可の既存不適格建築物です。

既存不適格物件と違法建築物との違い

既存不適格と似ている言葉に、違法建築(違反建築物)があります。しかし、違法建築は、既存不適格とはまったく異なります。既存不適格建築物は、建築当時の法律には適合していたものの、法律が改正されたために、新しい法律に適合しなくなってしまった建物です。

一方で、違法建築は、建築の時点からその当時の法律に適合しないままに建築されてしまった建築物のことをいいます。

違法建築物を所有しているとどうなる?

建築基準法など建築に関する法律は、建築物の安全性の最低基準を定めています。その基準を守らなかったことによって、死傷事故につながるケースもあります。

そのため、違法建築物の場合、市町村長や都道府県知事は、違法建築の建築主、工事の請負人または現場監督者、所有者等に工事の施工停止、建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替え、使用禁止、使用制限などの措置を命じることができます。

また、違法建築の設計者や工事監理者、工事の請負人などは、免許または許可の取消、業務停止処分などの措置を受けることとなります。

既存不適格建築物の売却が難しい3つの理由

既存不適格建築物の定義を踏まえた上で、その売却が難しい理由についてご説明いたします。

【理由1】買い主がローンを利用しにくいから

既存不適格の建築物は、既存の建物を建て替えたり建築確認が必要な規模の修繕を行うことができなかったりするため、活用範囲が限定的になります。そのため、担保価値が低くなり購入希望者が希望額でのローン審査に通りづらい可能性があります。

【理由2】築年数が古く老朽化しているから

既存不適格建築物は、接道義務を満たしていないなどの理由で建替えができないことも多いので、築年数の古い建築物がほとんどです。

そのため、建物の老朽化により資産価値が下がっており、買い手が見つかりにくい可能性があります。とくに旧耐震基準の建物の場合は、市場性が落ちます。

1981年(昭和56年)6月1日以降に建築確認申請を通った建物は「新耐震基準」と呼ばれ、これより古い建物は「旧耐震基準」と呼ばれます。旧耐震基準の建物は安全性の懸念があったり、住宅ローン控除を基本的に利用できないのがデメリットです。

木村 ゆり
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【理由3】建て替えや増改築に制限が生じるから

既存不適格建築物を購入した後に、購入者が建て替えや増築などを検討する際、制限が生じる場合があります。既存不適格は建て替えが認められないケースもありますし、建て替えると床面積が小さくなってしまうケースもあります。購入したものの自由が利かないとなれば、活用範囲が狭まるため、魅力が少ないと感じられてしまう可能性があります。

既存不適格建築物を売却する際の注意点

既存不適格建築物は、活用範囲が限定的になるため、売却時には以下のことに留意しておく必要があります。

買主に告げる必要がある

既存不適格建築物であることが判明しているなら、買主に説明する義務があります。売却物件が既存不適格建築物に該当することを買主が納得した上で売買契約を締結する必要があります。

価格が低くなる恐れがある

既存不適格建築物は、活用に制限が生じるため周辺の相場価格での売却は難しいことがあります。とはいえまずは、周辺の相場価格を知った上で、複数の不動産会社などに相談することが大切です。

住宅ローンの審査に通らない可能性がある

既存不適格建築物について住宅ローンを利用する場合、金融機関によっては担保価値が低く評価されたり、審査基準を満たさないため審査に通らない可能性があります。そうすると、物件を買ってくれる人は自己資金で購入できる人に限られてしまうため、売買が成立しにくい可能性があります。

実は、既存不適格建築物には、デメリットばかりではありません。たとえば、現行法で定められた容積率を超える建物は、価値が高くなる可能性があります。また、現在は建物を建てられない場所に合法的に建築されている場合も、一定の価値があります。

木村 ゆり
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既存不適格建築物の売却におすすめの6つの方法

売却が難しい既存不適格建築物ではありますが、必ずしも不可能とは限りません。売却方法としてどのような方法が考えられるかについてご説明します。

1.通常の不動産会社仲介による売却

既存不適格建築物であっても、現行の法律では建てることができない広くゆったりとした間取りに魅力を感じる方もあります。また、エリアにこだわりがある方であれば、建築確認が不要な規模でリフォームをして住みたいという方もいます。

一般的な相場より低い金額での売却になる可能性もありますが、割安物件であると認識してもらうことにより、通常の不動産会社の仲介によって売却することもできないわけではありません。

もちろん、売却に際しては、重要事項説明書などで既存不適格建築物であることは説明する必要はあります。通常の不動産会社の仲介によって売却することも選択肢のひとつとして考えておくと良いでしょう。

2.買取業者による買取

既存不適格建築のように売却が難しい、いわゆる「訳あり物件」に強い買取業者もあります。業者買取は、業者にとってはいわゆる仕入れにあたるため、一般の売却価格よりも低い金額となることを知っておく必要があります。

また、気を付けておきたいこととして、業者の中には買いたたきを行う業者もいる可能性があるということです。必ず、複数の会社に査定を行って、査定結果を精査し業者買取の相場観を確認しておく必要もあります。

3.既存不適格内容の是正後、仲介による売却

既存不適格になった事由に合わせて、減築や隣地購入(建ぺい率容積率オーバーの場合)などの是正を行い、既存不適格建築としてではなく通常の中古物件として売却することも検討してみましょう。これによって、買主がローン審査に通りやすくなるということにもつながります。

まずは隣地の所有者に売却予定がないかを尋ねてみたり、減築にどれくらい費用がかかるかを工務店などに確認したりしてみるとよいでしょう。

4.現金買いできる買主に売却

現金で購入できる買主であれば、ローンは不要になります。既存不適格建築の売却が難しい理由のひとつである、「ローンの審査を通りづらい」という点をクリアできることになりますので、売却しやすくなります。このように、現金買いできる買主を探すということも一案です。

5.古家付き土地として売却

建築物が、極めて築年数の古い場合には古家付き土地として売却する方法もあります。古家に建築確認の不要な規模でリフォームして住むことを検討する人にとっての選択肢となるだけでなく、エリアにこだわって土地を探している方の選択肢にも入ることになります。

一般的には、古家の取り壊し費用は買主負担であることが多いため、古家付き土地として売却する際には取壊し費用を考慮した価格設定を検討する必要があるでしょう。

6.更地にして売却

更地にすることによって、土地の上にある既存不適格建築物がなくなります。つまり、通常の土地として売却ができることになります。

ただし、更地にした場合、売却できるまで固定資産税の特例が適用されないため、税額は更地にする前のおよそ6倍となることについては注意が必要です。

再建築不可の既存不適格建築物は、建物を残しておいたほうが有利な可能性もあります。建物を取り壊すかどうかは、不動産会社と相談して慎重に判断してください。

木村 ゆり
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まとめ

既存不適格建築物の売却が難しい理由と、考えられる売却方法について解説しました。まずは所有の不動産が、どんな理由で既存不適格なのかについて理解し、売却の方法を探っていきましょう。

また、既存不適格建築物の売買実績があり、正しく価値を査定してくれる不動産会社に仲介を依頼することが大切なポイントです。どの不動産会社に依頼をすればよいか分からないという方は、複数の不動産会社などに一括して査定依頼をすることができるサイトを活用するのも一案です。査定結果、そしてその根拠を比較して、既存不適格建築物の売却に強い業者、売却方法の具体的な提案をしてくれる業者を選び、売却活動を進めていくとよいでしょう。

既存不適格住宅の売却はプロのアドバイスをもらうのが、
少しでも高値で売却するための一番の近道です!

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不動産鑑定士/土地活用プランナー

千葉大学卒業、地方銀行に勤務後、都内の不動産鑑定業者で事務所ビルやマンション等の収益物件の評価を数多く経験。現在は不動産鑑定士事務所を経営し、住宅・店舗・更地・山林・資材置場など多様な不動産に携わる。

土地活用や相続対策にも精通し、不動産に関するお悩み解決に尽力している。

●紹介されている情報は執筆当時のものであり、掲載後の法改正などにより内容が変更される場合があります。情報の正確性・最新性・完全性についてはご自身でご確認ください。
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