株式会社MonotaRO(大阪府大阪市)は、主に製造・建設現場で必要とされる消耗品・交換部品・工具などの間接資材をインターネットで販売する、間接資材通販の最大手です。「資材調達ネットワークを変革する」という企業理念を掲げる同社は、テクノロジーとデータを活用することで、商品の検索・見積・発注・支払いという、従来非常に手間と時間のかかった資材調達プロセスの圧倒的な効率化を実現。それによって2000年の設立以来、中小企業を中心に多くの顧客を獲得し、直近10年の平均で20%という高い売上高成長率を維持してきました。
そんな同社のビジネスを情報インフラとして2015年から支えてきたのが Slack です。同社は、当時リリースされて間もなかった Slack をどんな目的と理由で採用し、いかに活用して企業成長につなげてきたのでしょうか。Slack の運用・管理を担当するコーポレートエンジニアリング部門 コラボレーションインフラグループの佐々木孝行さん、一廼穂和征さん、加本有奈さんに、導入背景や活用法、効果などについて伺いました。
「メール依存から脱却したい」経営トップの意向で Slack の全社導入を開始
株式会社MonotaROにおける Slack の導入は、2015年、鈴木雅哉取締役代表執行役社長(当時、現取締役代表執行役会長)の「いつまでもメールに依存していたくない。もっと簡単に、円滑にコミュニケーションできる仕組みの導入を検討してほしい」という一声をきっかけに始まりました。発言の背景には、メールを主体とした当時の社内外のコミュニケーションに関するさまざまな課題や不満があった、とコラボレーションインフラグループ グループ長の佐々木孝行さんは振り返ります。
「メールは、とにかく面倒で無駄が多い。あいさつから始まる定型文を書くだけで数分、調べものや資料の添付をするとさらに時間がかかります。社内外とのやり取りだけでなく、リマインダーやアラートなどの各種通知もメールで行っていたため、処理が大変でした。また、メールは基本的にクローズドなコミュニケーションで、ToやCcに入っていない人には状況が見えないことや、それを補うために会話すると記録に残らないことも問題でした」(佐々木さん)
そうした状況を背景とする経営トップの意向を受け、同社のシステム部門は、メールに代わる新たなコミュニケーション手段として、チャットツールの全社導入を決定。複数の候補製品を比較検討しました。
その中で、2014年に正式サービスが開始されたばかりだった Slack は、多くの点で同社のニーズに合っていた、と佐々木さんはいいます。たとえば、もともとビジネス向けに開発され、業務効率化の観点を重視していることや、複数の企業や組織でシームレスに利用できること。さらに、ユーザーが爆発的に増えていて、今後グローバルスタンダードとなる可能性を秘めていることや、機能拡張を期待できること。システム部門はそうした点を評価し、Slack の導入を決めました。
ただ、いきなり全社導入するのは予算面で難しかったことから、同社はまず、IT部門を中心に Slack を展開。成果を社内に示した上で、利用範囲を他部門へ徐々に拡大していきました。そして、導入から約2年後には、ほぼ全社員が Slack を利用するようになったのです。
Slack のワークフローで各種定型業務を効率化
Slack は、大別して2つの点で、同社の業務とコミュニケーションを変革しました。1つ目は、さまざまな定型業務の工数削減と精度向上。その一例が、請求書処理の自動化です。
同社では、多くの企業と同様、取引先からの請求書が繁忙期の月末に集中します。従来はそれらを受け取った各案件の担当者が、メールに請求書の文面を添付して必要な処理の内容を記し、請求処理担当者へ送っていました。そうした処理を多忙な月末に手作業で行うため、当然ながらコア業務の時間は圧迫され、かつ抜け漏れがしばしば発生していました。
そこで同社は、Googleスプレッドシートなどのアプリから Slack にメッセージを投稿できるIncoming Webhooksを利用し、請求処理担当者宛に処理依頼を送信するワークフローを構築。コラボレーションインフラグループの加本有奈さんは、その効果についてこう話します。
「ワークフローの通りに作業を進めるだけで自動的に請求書を提出できるようになり、工数が月間20時間程度削減されました。また、請求書の期限が迫ってくると Slack にリマインダーの通知がくるので、抜け漏れがゼロになりました」(加本さん)
Slack によるリマインダーは、他の業務でも活用されています。たとえば加本さんは、社内で利用中のSaaSツールのライセンス管理を担当しているため、各ツールの契約更新時期が近づくと Slack に通知されるようにして、更新忘れを防止しているそうです。
Slack は、勤怠管理においても利用されています。始業時刻が近づくと、botが社員に向けて「今日の勤務の報告はこちらにお願いします」と自動投稿します。社員はそれを見て、業務開始や残業の報告を Slack にスレッド方式で投稿していきます。そのように勤怠を Slack に投稿すれば、形式上、上長の承認を得られたことになる仕組みです。たとえ毎朝1名30秒程度の作業でも、全社員の月間で算出すれば、約216時間の削減効果を生んだことになります。
そのように Slack は、定型業務においてなんらかのイベントが発生した際、関係者に通知して気づきを与え、ワークフローで作業を自動化するという、各種業務の効率化に貢献しているのです。
オープンチャンネルでコミュニケーションを円滑化・迅速化
Slack がもたらした2つ目の変革は、コミュニケーションの円滑化と迅速化です。コラボレーションインフラグループの一廼穂和征さんは、長年の懸案だった社内外におけるコミュニケーションが、メールよりはるかに手軽で、心理的ハードルの低いものになった、と話します。
「たとえば相手の意見に賛同するなら『承知しました』、少し調べたいときには『確認します』のスタンプを押すだけで、すばやく意思を伝えられます。もともとなるべく気軽なコミュニケーションを心がけてきた当社の風土にはぴったりのツールでした」(一廼穂さん)
同社では、Slack の大まかな運用ルールを規定し、部署や製品、プロジェクトごとに、基本的にクローズドではなくオープンなチャンネルを作成しています。そしてその中では、質問の投稿に気づいた社員が即座に答えたり、答えられる社員やリンクへ誘導したりするなど、メールとは比較にならないほど円滑で迅速なコミュニケーションが行われています。
「たとえば、『こういう申請のための書式はどこにありますか』『床を汚してしまったのですが』といった投稿をしたときの総務部門の対応は格段に速くなりました。もし Slack がなく、メールや電話を使っていたら、すぐに反応してもらえないことはもちろん、そもそも誰に連絡すればいいかわからないことすらあったでしょう。いろいろな業務において、伝えるべき人に情報を伝えられず、なかなか気づいてもらえなかったり、伝言リレーが始まったりして、もっと手間と時間がかかっていたと思います」(一廼穂さん)
Slack によるオープンなコミュニケーションは、部門や企業の垣根を越えたコラボレーションにおいても威力を発揮しています。一廼穂さんは、ウェビナー動画を社内外のスタッフと制作するプロジェクトにおいて、Slack canvas を便利に使っているそうです。
「動画制作に関する Slack canvas には、動画ファイルの状況や、それに対する意見、編集メンバーの対応内容などがどんどん投稿されていきます。そうしたやり取りは形としてしっかり残るので、複数拠点や在宅のメンバーによる同期的なコミュニケーションだけでなく、その場にいなかったメンバーでも非同期的なコミュニケーションを取ることができます」(一廼穂さん)
加本さんも同様に、動画制作プロジェクトで Slack の有用性を改めて実感したといいます。
「とにかく相手のレスポンスが速いので、すばやく意思決定したり、細かな指示をどんどん出したりすることができます。Slack で業務のコストやリードタイムを短縮できたからこそ、以前は外注していた動画制作を現在のように内製化できたのだと思います」(加本さん)
そのように Slack は、今や同社のコミュニケーションにおいて欠かせないものとなっています。佐々木さんは、そのことを端的に示す例を紹介してくれました。
「実は当社では最近、なにか新たなシステムを導入する際、基本的に Slack でサポートを受けられるものの中からなるべく選ぶようにしています。Slack でサポートに連絡すると、圧倒的な速さで返事が返ってくる。一度そういう体験をしてしまうと、もうメールや電話のサポートには戻れません」(佐々木さん)
Slack に蓄積された膨大な情報をナレッジとして活用
さらに同社では、10年近くにわたって Slack 上で積み重ねられたやり取りの内容が、業務遂行に役立つナレッジとして多くの社員に活用されています。たとえば加本さんの場合、自身の担当するライセンス管理業務において、過去に海外送金をどう処理したかを Slack で検索する、といった使い方をよくするそうです。一廼穂さんは、Slack に蓄積された膨大な情報の価値の大きさについてこう語ります。
「業務においてなにか困ったことがあったとき、社内なら過去に同じような人がいたはずだと思って Slack を検索すると、たいてい答えが見つかる。オープンのチャンネルでやり取りしているからこそできることです」(一廼穂さん)
一方、佐々木さんは、コラボレーションインフラグループを統括する立場から、オープンチャンネルでやり取りされる情報の有用性について次のように話します。
「当社ではタスク管理システムを使っていますが、そこには残っていないような細かな会話が Slack にはすべて蓄積されていて、いつでも見られる。今このチームでなにをやっているか、隣のチームではどう動いているかというグループ全体の状況を、わざわざ情報共有してもらわなくても把握できるというのは、管理側にとって大きなメリットです」(佐々木さん)
大きな成果に満足せず、Slack の活用範囲を日々拡大
利用開始から約9年。Slack の生み出したさまざまな成果を振り返ったとき、中でも特に大きいのは、やはりメールをほとんど使わなくなったことだ、と佐々木さんは強調します。
「メールだと数分かかることが、Slack なら1分でできてしまう。やり取りが増えるにつれて、その時間差はどんどん膨れ上がるわけですから、圧倒的な時間削減を実現できたといえます。Slack に関する社内のマネージャー以上向けのアンケートでも、投稿やレスポンスの速さを評価する声が非常に多かったです」(佐々木さん)
コミュニケーションの迅速化は、当然ながらさまざまな業務や意思決定のスピードアップに直結しています。一廼穂さんは、Slack による定量効果についてこう話します。
「前職のときには調べるだけで1日が終わってしまうような業務上の疑問が、今は Slack を検索して10分程度、つまり50分の1ぐらいの時間で解決する、ということがよくあります。また、先ほどの動画制作に要する時間も、外注していたときと比べて半分以下に短縮されました」(一廼穂さん)
そのように、企業成長を支える情報インフラとして Slack を活用し、大きな成果を挙げている同社。しかし、同社はそれに満足することなく、Slack の活用範囲を日々拡大させています。最近の例では、生成AIのChatGPT-4を Slack と連携させ、対話型でさまざまな業務を手助けしてくれる「Mono Chat」を構築。開発部門でコーディングのバグ取りや整形、ロジックを組むときの相談などに利用しているほか、Zoomの議事録の要約など、さまざまな場面で活用を始めています。
最後に佐々木さんは、今後の展望について次のように語りました。
「カスタマーサポートや物流など、実は完全には Slack に移行できていない部門もあり、全社導入はまだ道半ばという状況です。問い合わせ窓口を Slack で統一する、Slack と連携させたアプリをどんどん導入するなど、Slack を必ず使うような施策を展開し、すべての業務が Slack を中心に行われる状況を早く実現したいと思っています。
加えてもう1つ、外部のサプライヤー様とのやり取りを、従来のメールから Slack コネクトに徐々に切り替えたいと考えています。当社は多くのサプライヤー様と取引があるので、そのコミュニケーションを Slackで行えば、ビジネス上のインパクトは非常に大きいと期待しています」(佐々木さん)