デロイト トーマツ グループでは2017年以降、「グローバルAI活用企業動向調査」を行っている。最新(2021年)の調査結果(*)によると、日本はグローバルと比較して人工知能(AI)活用の成果で大きな差が生じていることが明らかになった。何がその差を生じさせているのか、どうすればギャップを埋められるのか。早稲田大学ビジネススクール教授の根来龍之氏を迎えて、デロイト トーマツ コンサルティングの室住淳一氏と上平安紘氏が議論した。

人材不足、全社的戦略の欠落がDXを阻害

室住 デロイト トーマツ グループが実施した「グローバルAI活用企業動向調査2021」(*)によると、日本はグローバルと比較してAI活用の成果が出ていないことが明らかになりました。グローバル全体では54%の企業がAI活用で高い成果を上げることができたと答えているのに対し、日本企業は34%に留まります。

 AI活用がうまくいっていないのは、AI投資に対する方針の違いに起因するのではないかとも予想されたのですが、グローバルも日本も、7〜8割の企業が積極的に投資額を増やすと回答しており、大きな差はありませんでした。

 調査結果の中で我々が気になったのは、「データアクセス」です。優れたAIを開発するには、データアクセスが量的にも質的にも担保されていることが不可欠です。グローバルでは43%の企業がAI開発・活用のためのデータアクセスを促進しているのですが、日本は21%です。これが問題の1つ目です。

 2つ目は、「人材・組織」です。グローバルでは38%の企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進の専門組織を構築していますが、日本は26%です。さらにDX推進専門組織の設置に合わせて、新しい業務手順や業務標準がつくられるべきなのですが、こちらもグローバルの38%に対して、日本は24%となっています。人材についても、DXを推進するためのスキルを持っているかどうかで、グローバルでは34%と回答したのに対し、日本では25%と9ポイントの差がありました。

 そして3つ目が重要なポイントですが、「全社的なAI戦略」の策定状況です。日本企業はグローバルと変わらず、40%の企業がAI戦略を策定していると回答しました。しかしながら、AI活用が競合他社との差別化につながっていると考えている日本企業は15%に留まり、グローバルの38%と比較して23ポイントも低い状況です。

 総括すると、日本企業もDXの予算は増やしつつあり、DXの促進要因になっています。一方、データアクセスが限定的であったり、人材・組織が不十分であったりすることが阻害要因となっています。トータルでは阻害要因のほうが大きくて、DX推進に時間がかかり、競争優位性にもつながっていない。私たちはそのように理解しています。

根来 大変興味深い結果ですが、日本企業特有の問題と、グローバルに共通するビジネスモデル革新の問題を分けて考える必要があると思います。

 欧米企業にはタスク採用という考え方があり、AI人材であれば、すでにAIスキルを備えた人を採用します。日本の場合は、新卒一括採用を行い、ジョブローテーションの中でAIスキルを身につけさせようとするので、なかなかAI人材が育ちません。

 AI活用、データアナリティクスは、一つには生産や営業などの業務プロセス革新、もう一つは、ビジネスモデルそのものを革新するところで有用性があるわけですが、後者については、日本はまだまだ弱い企業が多いと思います。ぜひ、ビジネスモデル革新にチャレンジし、競争優位性を獲得する企業が増えてくることを期待しています。