Tide Guide〜独学で開発を学んだデベロッパの潮汐情報アプリ
2024年5月9日
![](https://devimages-cdn.apple.com/wwdc-services/articles/images/4E8D9043-9E21-412E-9C33-09CD0165FD1A/2048.jpeg)
アプリが誕生する過程には数多くの興味深いエピソードがあります。その中でもTucker MacDonald氏とTide Guideの物語は、まるでハリウッドの映画のようです。物語は夜明けのケープコッドから始まります。この地で、少年時代のMacDonald氏は祖父から釣りの手ほどきを受けていました。
「祖父は毎朝、まず新聞で潮見表をチェックしていました」とMacDonald氏は言います。「それから祖父は私を起こし、こう言ったものです。『潮の流れも天気も良好だ。5時30分までに埠頭に行くぞ』」
![iPadでのTide Guideのスクリーンショット。様々な色合いの青色を背景に、潮の満ち引きを示す線グラフと気象に関する追加情報が表示されている。](https://devimages-cdn.apple.com/wwdc-services/articles/images/34D9E222-E665-492A-9F4B-05F87182B35D/2048.jpeg)
このような原体験を通してMacDonald氏は潮の満ち引きに親しむようになり、それがTide Guideにインスピレーションを与えています。Tide Guideは、優れたデータ視覚化により必要なすべての情報を提供する予報、驚くほど豊富なウィジェット、ゆとりのあるiPadレイアウトが特徴です。また、海に関わるこのアプリに相応しく、Dynamic Islandで表示されるライブアクティビティは特に美しい見栄えです。 SwiftUIを使用して構築されたこのアプリは、Apple Watch用の美しいコンプリケーションや、求めるデータの詳細度に応じて簡単にカスタマイズできるUIを備えています。オリジナルのデザインとフレームワーク標準が見事に調和しており、ボートの出航、研究プロジェクト、そしてビーチでのピクニックなど、さまざまな用途での最適な時刻を判断できます。
Tide Guideは、2023年のApple Design Awardsでファイナリストに選出されました。それまでアプリを開発した経験がまったくなく、フリーランスの映画製作者としてのキャリアを歩んでいた個人のデベロッパがこの偉業を成し遂げたことは、称賛に値します。
「小学校5年生の時からハリウッド映画の監督を目指していました」とMacDonald氏は言います。映画製作者として駆け出しの頃、MacDonald氏は、「監督のためのビューファインダーアプリのような」カメラとレンズのさまざまな組み合わせを事前に視覚化できるツールが欲しいと思っていました。すでに、それなりに良いアプリがいくつか公開されていましたが、MacDonald氏が求めていたのは、iPhoneでの自然な使用感を提供する、iOSのデザイン言語で構築されたアプリでした。「そこで私は動画を見て、独学でアプリの作り方を学んだのです」とMacDonald氏は言います。
ほどなく、MacDonald氏は映画製作から開発の道に転身し、あるソーシャルアプリのUIデザイナーの職に就きました。「そのアプリは失敗に終わりましたが、この仕事を通じて、デザイナーとしてエンジニアと協力する方法を学びました」とMacDonald氏は語ります。「奇抜な要素や非標準のナビゲーションなどを使ったアプリを制作していたため、デザインのベストプラクティスについても多くのことを学びました」
![黒いセーターを着て、水面に浮かぶボートに座っているTucker MacDonald氏の白黒の画像。](https://devimages-cdn.apple.com/wwdc-services/articles/images/5A280B85-1180-4FE6-BC34-20CB41E63513/2048.jpeg)
デザインに関する知識を蓄えたMacDonald氏は、祖父と朝釣りに行っていた頃を思い出し、釣りに最適なコンディションを見極めるという重要なプロセスを、より短時間で行うためのアプリをどうすれば作れるか考えるようになりました。それには難しい理屈は必要ありませんでした。「主に想定したユースケースは、釣りに行ったり、ビーチに出かけたり、夕日を見に行くといった場面です」とMacDonald氏は語ります。「現在の状況を表示する機能があれば、それでよかったのです」
デザインにはこだわりましたが、コードは非常に簡単なものでした。
Tide Guide、Tucker MacDonald氏
それから数年間、MacDonald氏は独学でスキルセットを身につけていき、それに伴ってTide Guideも進化を遂げました。「何度も試行錯誤を繰り返しました。デザインにはこだわりましたが、コードは非常に簡単なものでした」とMacDonald氏は笑いながら言います。「ドキュメントを読み、デベロッパコミュニティで質問をして、コーディングとデザインの両方を学びました」
現在のTide Guideは、最初のバージョンと比べると大幅にグレードアップしています。MacDonald氏のアプリは今も海に出かけるすべての人を対象としていますが、10日先までの時間ごとの予報、水温、波の高さなどの有用な指標が追加され、上級ユーザーが必要に応じて確認できるようになっています。さらに、アプリのパレットは、1日を通して変化する空の色に合わせて変わるデザインです。「時間をかければかけるほど、情報を深く掘り下げることができます」とMacDonald氏は言います。
![iPhoneでのTide Guideのスクリーンショット。補色の数種類の青色を背景に、潮と気象に関する豊富なデータが表示されている。](https://devimages-cdn.apple.com/wwdc-services/articles/images/6FF71611-DE70-49CA-95E7-3DEE6177CD01/2048.jpeg)
情報を深く掘り下げられるため、潮の状態が良い時にのみ遠隔地に上陸できるアラスカのツアー会社や、スコットランド国営の非営利レスキューサービスなど、世界中の人々に活用されています。このレスキューサービスのメンバーからはSiriショートカット関連のワークフローがリクエストされ、MacDonald氏はすぐに対応しました。Tide Guideの広まりと進化に伴い、MacDonald氏の開発に関する知識、さらに海洋学に関する知識もますます豊富になっています。MacDonald氏はこう語ります。「素晴らしい体験を生み出したいという私の熱意が伝わって嬉しく思います。私はこの開発プロセスを心から楽しんでいるからです」
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「デザインの舞台裏」は、Apple Design Awardsの各受賞者がどのようにデザインを実践しているかを紹介し、制作の背景にある哲学を探っていくシリーズです。賞を獲得したアプリやゲームのデベロッパやデザイナーが、どのようにしてその素晴らしい作品に命を吹き込んだのか、ストーリーごとにその舞台裏を覗いていきます。