第1回:中村敏久さん UN Womenジュネーブ事務所 緊急・人道支援部 プログラム分析官・JPO (防災・災害レジリアンス担当)
2019年1月19日実施
中村敏久さんは、2017年2月よりJPO派遣制度*を通じてUN Womenジュネーブ事務所 緊急・人道支援部 プログラム分析官として働いています。今回は、UN Womenジュネーブ事務所で活躍するインタビューを行いました。どうぞお読みください。
【経歴】
UN Womenジュネーブ事務所及びNY本部にて、防災・災害レジリアンスに係る政策・コーディネーション・事業実施支援等を担当。前職では、外務省、内閣府、ワールド・ビジョン・ジャパン等にてジェンダー、女性・子どもの権利等を担当。国際基督教大学教養学部国際関係学科卒、国連平和大学国際公法修士課程修了(人権専攻)。アジア・リーダーズプログラムスカラー。新潟県出身。
Photo: UN Women/Brian Diah
難民や被災した女性や子ども等、弱い立場におかれがちな人は、時に自分達の苦境を社会に訴えるすべがなく、その声がかき消されてしまうことがあります。国連加盟国へのアクセスがある国際機関の立場を通じ、そういった声が、為政者にわかる形で届き、当事者が必要とする形で支援がなされ、更に支援を受けた人がエンパワーされ自分達でリードしていく、それが自分の仕事であり、目標だと思っています。
なぜUN Womenで働こうと思ったのでしょうか。
2014年9月にニューヨークで開催された、UN Women主催のHeForShe**ローンチイベントに参加したのが、最初の出会いでした。当時、「ジェンダー」は自分には縁遠い分野だと思っていたのですが、エマ・ワトソン親善大使のスピーチを聞くなかで、ジェンダー平等・女性のエンパワーメントの実現のためには、「男性」である自分が果たす役割も重要なのだと認識するようになりました。その後、ジェンダー・LGBT・女性の権利関係の業務に携わる中で、日本の性的マイノリティーが直面する困難、アフリカ女性が直面する信じがたい性暴力などの事例を知ることになり、この分野の重要性を強く感じるようになりました。その後JPOのオファーを頂き、2017年からUN Womenでの勤務を開始しました。
UN Womenでの仕事内容を教えてください。
各種調査により、社会経済的なジェンダー不平等が、人の受ける自然災害の被害に影響を与えることが指摘されています。例えば、女性が社会的に弱い立場におかれる国では、女性の方が男性よりも自然災害に対する災害リスク・脆弱性が高い傾向にある、という報告があります。他方で、女性を弱い立場としてみるだけでなく、防災や災害対応に女性が果たす役割の重要性を認め、防災リーダーとして女性の参画を進めていくことも重要です。上記を踏まえ、自然災害に係る、政策・国連としての活動・UN Womenの実施する支援事業が、ジェンダーに配慮したものになるよう、ジュネーブをベースに活動しています。より具体的には、国連の各種政策文書の作成や文言の提案、国際会議でジェンダーの重要性が強調されるように働きかける、カントリーオフィスの事業実施に係る技術支援(企画書の作成支援や、出張等)等を行っています。また、「女性」・「ジェンダー」を外交上の重要課題とする国連加盟国への働きかけも行っており、例えば、日本は、女性と防災に非常に力を入れていて、世界各国に力強く働きかけてくれる重要なパートナーです。
仕事での難しさや、やりがいを教えてください。
UN Womenはできて間もない国連機関であり、恒常的に人手が足りず、また認知度も低いため、職員1人1人が何倍も努力をする必要があります。例えば、私の所属する防災・災害レジリアンスチームは、私と上司の二人しかいませんが、ジュネーブ・ニューヨークでの自然災害に係るグローバルな議論、ジュネーブだけで10以上ある防災関係グループの活動、世界45か国以上で行われる防災関係事業の支援、全てをカバーしています。また、本部にいると、被災地等の現場に行くことは少ないため、自分達の仕事が与える変化を直接肌で感じることはかなわず、そういった意味でのやりがいを感じることは難しいです。他方で、自分達の提案した文言が、例えば国連事務総長報告書に反映され、防災におけるジェンダー主流化の重要性が強調され、各地の防災活動に影響を与えていくのを見るとき、とてもやりがいを感じます。
国連での仕事は厳しい面も多いかと思いますが、それでも成し遂げようというパワーの源は何ですか。
私達はとても小さなチームであり、仕事の多くは国連決議・報告書等の文言とにらめっこし、他の国連機関と交渉するなど、とても地味なものです。しかし、私達の書く一語一語、会議での一言、動かした活動予算であったり、遠くジュネーブでおきたそういった小さな小さな変化を通じ、自然災害に苦しむ人の助けになるかもしれない、またそれはここにいる自分達にしかできないことである、そう思って全身全霊を込めて文書を書いています。
また、ジュネーブに一緒に暮らす家族、妻と娘が、日々頑張るエネルギーを与えてくれています。東京で働いていた時は、深夜に帰宅することが多く、なかなか家族との時間を過ごせませんでした。しかし、職場があるスイスというお国柄もあるかもしれませんが、UN Womenの同僚・上司は終業時間になると必ず帰宅し、家族と過ごします。そういったスタイルに影響をうけ、自分も仕事の効率化を図り、早く帰宅するようになりました。その中で、妻の新しい一面を見たり、成長している2歳の娘の日々の変化を見るのはこの上ない喜びです。家族と充実した時間を過ごすことが人生のベースにあり、そうすることで充実した仕事につながると思っています。
中村さんのこれからの目標を教えてください。
“あなたの口を開いて弁護せよ ものを言えない人を犠牲になっている人の訴えを。あなたの口を開いて正しく裁け 貧しく乏しい人の訴えを”-私の好きな言葉です。難民や被災した女性や子ども等、弱い立場におかれがちな人は、時に自分達の苦境を社会に訴えるすべがなく、その声がかき消されてしまうことがあります。国連加盟国へのアクセスがある国際機関の立場を通じ、そういった声が、為政者にわかる形で届き、当事者が必要とする形で支援がなされ、更に支援を受けた人がエンパワーされ自分達でリードしていく、それが自分の仕事であり、目標だと思っています。壮大な目標で、自分ができることは限られていますが、そのために日々、毎年、自分の仕事を通じて少しずつでも貢献していきたいです。より短期的には、毎年末に1年の活動を振り返る際、例えば”OO国で、我々の支援を通じ、自然災害の被害がO%減少した、O人の命が失われずにすんだ“、という報告ができること、そしてそういった報告が毎年増えていくこと、それを目指しています。
また、私には2歳9か月の娘がいます。彼女が大人になったときに、“女性だから”、という理由で選択肢が限定されることなく、1人の人間として評価され、自分の可能性・選択肢を最大限追及できる社会になるよう、貢献していきたいと思っています。
UN Womenを目指す人にメッセージをお願いします。
UN Womenは、自分次第で何でもできる、無限の可能性がある場所だと思います。設立されてから間もなく、良くも悪くも未完の組織だからこそ、新しいことに取り組む、色々な職務領域に挑戦する、若くして大きな責任を任される、などここならではの経験ができます。その分、仕事は大変なこともありますが、密度の濃い毎日を過ごすことができます。職場の仲間も人生経験豊富で愉快な人が沢山おり、日々笑いが絶えることがありません。公私ともに、一瞬も退屈することはない、エキサイティングな毎日が待っています。UN Womenのマンデートである、ジェンダー平等・女性のエンパワーメントが、あなたの志と合致するようでしたら、是非門戸をたたいてください。いつか一緒に働く日を楽しみにしています。
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* JPO派遣制度とは:将来 国際機関で正規職員として働くことを志望する若手を対象に行われる制度であり、派遣者は各国際機関で一定期間(原則2年間)職員として働き、正規職員に必要な知識や経験を積むことができる。(詳しくは:https://www.mofa-irc.go.jp/jpo/seido.html )
** HeForSheとは:UN Womenによる、ジェンダー平等のための社会連帯運動。世界中のすべての人がジェンダー平等の実現のために参加し、変革の主体となれるよう、体系的なアプローチとそのためのプラットフォームを提供している(リンク:https://www.heforshe.org/en)。なお、2015年には、各国首脳10名、世界的企業のCEO10名および大学の学長10名をIMPACTチャンピオンとして選び、トップからジェンダー平等に向けて変革を促すことを目指すHeForShe IMPACT 10x10x10プログラムが立ち上げられた。日本の安倍晋三内閣総理大臣、並びに松尾清一名古屋大学総長がそれぞれの分野で、IMPACTチャンピオンの1人として名を連ねている(リンク:https://www.heforshe.org/en/impact)。